この本をお作りになる区切りは、
ひとつではありません。
いちばん多いのが、この区切りです。 ターフを去る日。種牡馬や繁殖に上がる日。乗馬へ転向する日。
この頃はまだ、厩舎も牧場も、全員がその馬を覚えています。 調教師も、担当の厩務員さんも、獣医さんも。 ——本の材料が、いちばん豊かに揃っている時期です。
引退記念として、関係者の皆さまへお配りになる。 この本の、最も自然な使われ方かもしれません。
重賞を勝った年。初仔が生まれた日。 入厩から十年。あるいは、馬主になられて最初の一頭。
区切りは、ご自身がお決めになるもので構いません。 「この一頭のことは、形にして残しておきたい」 ——そう思われた日が、その馬の区切りです。
この本の材料は、写真ではありません。人の記憶です。
担当だった厩務員さんが、いつまでも同じ厩舎にいるとは限りません。 牧場の方も、獣医さんも同じです。 覚えている人が散らばってしまうと、 どれだけ丁寧に調べても、埋められない空白が残ります。
『ありがとう ツルマルボーイ』の本文に、こういう一行があります。
画家はこの一行を読んで、画面いっぱいに湯気を描きました。 ——こうした一行は、資料からは出てきません。 覚えている人の話からしか生まれません。
そして、お元気なうちにお作りになれば、 できあがった本を、その馬に見せに行くことができます。
「いつか」と思っているうちに、
時間だけが過ぎることがあります。
一頭の一生は、思うより短いものです。
現役の馬でも、引退された馬でも、
すでにお別れになった馬でも、同じようにお受けします。
まだ何も決めていない、という段階で構いません。