本ができあがった日のことを、
少しだけ想像してみてください。
桐の箱が届きます。 蓋を上げると、まず紙の匂いがします。 表紙は布です。指の腹に、少しだけざらつきます。 箔で、愛馬の名前が押されています。
——ここまでは、あなた一人の時間です。
本当のことが起こるのは、この次からです。
本は、三十部からお作りします。 三十部というのは、いちばん少ない数です。 なぜそれが最少なのかは、配りはじめると分かります。
ご家族の分です。お子さん、お孫さんの分。 何十年か先に、その方たちがこの本を開きます。 「この馬をね、おじいちゃんが持っていたんだよ」—— そう伝わる形は、写真の入ったフォルダには残りません。
同じ一頭に賭けた方々です。 あの日、同じ場所で同じ瞬間を見ていた人たちが、 同じ一冊を持つことになります。
三十部のうち、いちばん遠くまで届くのが、この十部かもしれません。
毎朝いちばんにあの馬の顔を見ている厩務員さん。 夜中に見回りをする牧場の方。担当の獣医さん。 その方たちの家の本棚に、あなたの馬の本が並びます。
馬主から本が届いた、という出来事は、 受け取った人にとって一生の話になります。
お世話になった方へ。恩人へ。 そして、封を切らないまま残しておく一部を。
——これで、ちょうど三十部です。ひとつも余りません。
ここまで読みながら、指を折られた方がいるはずです。
「あの人にも渡したい」
「あの牧場にも、一冊あったほうがいい」
そう思われたなら、三十部では足りません。
一頭の馬には、驚くほど多くの人が関わっています。
生産牧場。育成牧場。厩舎。装蹄師さん。獣医さん。輸送の方。 クラブの事務局。長く応援してくださった方々。 ——思い出すたびに、名前が増えていきます。
本の終わりの頁に、「限定 ○○部」と刷ります。 一部ずつの通し番号も、同じ頁に入ります。 その数字は、印刷された本の一部です。
ですから、部数はあとから変えられません。 三十部として世に出した本に、三十一部目は存在しないからです。 足すとすれば、それは別の版になります。
お決めいただくのは、部数というより、名簿です。 渡したい方を、先に全部思い出しておいてください。 五十部、百部とお作りになる方がいらっしゃるのは、そのためです。
一口クラブの馬であれば、出資者の方々へ。 記念の会を開かれるのなら、その日の贈り物に。 引退馬の支援に関わる方々へ、お配りになる方もいらっしゃいます。
何部お作りするかは、ご相談のいちばん最初に伺います。 誰の手に何番が渡るかは、あなたが決めます。
『ありがとう ツルマルボーイ』の目次です。 中身はまだお見せできません。章の名前だけです。
この一冊は四十ページ。右のページが絵、左のページが文章です。 一頭の一生を、十六の章に分けました。 章が増えれば、頁数も絵の点数も増えます。
生まれた牧場の名前。初めて勝った競馬場。 気の合わなかった鞍上と、最後まで面倒をみてくれた厩務員さん。 ——一頭ずつ、章立ては変わります。
さて。
あなたの愛馬の目次は、
どんな章立てになるでしょうか。
現役の馬でも、引退された馬でも、
すでにお別れになった馬でも、同じようにお受けします。
まだ何も決めていない、という段階で構いません。